バラナシ14・魔女の館


一人でバラナシの街をぶらついていた。



FennyとYuiがバラナシの大学を見に行くといったが、
「Ves、あなたも興味ある?行く?」
『いや、全然ないw』
ということで昼間は別行動することになったのだ。



しつこいようだがこれが篠田真理子似の女の子だったら、『おw大学っすか!俺も実は見に行きたいと思ってたんよw』とか大ぼら吹きつつなるべく行動を共にしようと思っていただろう。
が、逆に彼女らに関しては特にそういった感情を持っていなかったこともあって、程よい距離でお互いがお互いの好きなように行動ができたのだった。それは旅の同行者として理想的な距離感といえた。



俺は街を散策しながら絵になりそうな場所を探しては、好きなように写真を撮っていた。





すると、ふと気になる建物を見つけた。
ガンジス沿いにあるその建物は、2階のバルコニー部分から草木が飛び出ているのが印象的で、その下に日本語で『久美子の家』と書かれていた。
有名なバラナシの○ミコハウスという日本人宿だ。ここにあったのか。

日本人ながらもバラナシに住み、ホテルを経営し宿泊客に日本料理を振舞うというオーナーの噂は、実はバラナシに入ってきてから色々と耳にしていた。タオルを買ったプッシィやクロオなどが話していたのだ。

その噂はけしていいものではなかった。
『○ミコハウスはジャンキーの巣窟』『○ミコさんは質の悪いドラッグを廻している』などというもので、どこまでが本当かわからないが、およそほとんどの噂はドラッグが共通していた。



そんなワケで俺は特に○ミコハウスに泊まりたい、などという気持ちはなかったのだが、こうして実際に噂のホテルを発見してしまうと、入ってみたい衝動が抑えられなくなってしまった。





入り口の扉を開けて、入ってみる。薄暗い室内。人がいない。
『すみません、どなたかいらっしゃいませんか?』声を出してみる。

「…はーーい」
ドタドタと足音が聞こえて、一人の恰幅のいいおばさんが現れた。うお、これが○ミコさんだ。



どうしたの?宿泊ですか?と言われる。フレンズGHで満足していたので泊まる気はなかったけども、空き部屋はありますか?と尋ねてみる。

「うーん今はドミトリーしか空いていないわよぉ。個室の方は全部埋まっちゃっていて。ダハハ!」

○ミコさんは豪快に笑った。頭の中に、ドミトリーにいる連中全員がドラッグ漬けで虚ろな眼をしている想像をした。俺は昔から興味はあるのだが、ドミトリーというものに泊まった事がない。盗る人なんていないよ、といわれていても荷物大丈夫かなあ…と思ってしまいそうで。



「ドミトリーはそこの入り口を左に行ったところに…あれ?右だっけ?左ってこっちでいいんだよねぇ?なんせ日本にあまり帰っていないからパッと思い出せない時があって!wあっはっは」


突き当たりの木製の小さな椅子に片膝を立てて座りながら、○ミコさんが豪快な笑い声を立てる。古ぼけた感じの、モノが多い入り口の部屋。年季の入った木製の家具の合間にうずたかく古書がつまれて、奇妙な人形が座っている。○ミコさんの後ろの窓から丁度光が射していて、入り口の俺から○ミコさんが逆光になっていた。



そのせいで笑い声は聞こえたのだけれど、彼女の表情がはっきりと見えなかった。瞬間、魔女という言葉が脳裏をよぎった。そうだ、この部屋は絵本などに出てくる魔女の部屋のようだ。



絵本に出てくる魔女には、いい魔女と悪い魔女がいる。○ミコさんがどちらの魔女なのか、聞いた噂だけでは判断ができない。けれども俺は刺激を求めてこのインドにやってきた。もし、俺がこの宿に泊まっていたら…刺激的な展開があったんじゃないかって、そう思う。

わかりました。それじゃまた今度…という俺に、あいよ!と○ミコさんは相変わらず豪快な返事をしてくれたのだった。




バラナシ15に続く。