一枚の写真

イタリア ボローニャ 2007年2月


今年の2月のイタリア旅行での話。
ヴェネチアからフィレンツェへと南下する途中ボローニャ(中田がいた街だ)に寄った。宿泊の予定はなくあくまで寄るだけだったので、その日だけついたガイドには滞在時間は2時間と言われていた。
美食の街なのに行きたいレストランが中々見つからなくて困った。ようやく食事を終えるとろくに名所も見てない事に気づく。街の中央にある斜塔に登ってみようと連れと決めた。エレベーターも何もない木造の階段が螺旋に続く古めかしい塔。外の喧騒は石壁に遮られて、くるくるくるくると回っているうちにハムスターを思い浮かべる。

もう歩けないと連れが息を切らした頃、ようやく塔のてっぺんについた。
煉瓦の壁と鉄柵の間から見下ろした赤い屋根の町並みは、なんだか空の空気までもがぼんやり赤いような錯覚をする。てっぺんには他の観光客はバックパッカーぽい若い欧米人の女の子が一人いただけだった。連れと写真を撮りあったところで、せっかくだからと持っていたポラロイドカメラで彼女の写真を一枚撮って、渡してあげた。目を丸くして、その後すごく喜んでいたのを覚えている。
時計を見るともうガイドのところに戻らなければならない時間で、ぼく達はあわただしく螺旋階段を降りていった。すると、階段の上の方から呼びかける声がして、彼女が顔を覗かせていた。なんだかぼく達を追いかけてこようとしているみたいだったけど、ぼく達が急いでるのを知ったのか、代わりにフラッシュの光がした。旅の思い出にと、束の間すれ違ったぼく達をカメラにおさめたかったんだろう。コンパクトデジカメの内臓フラッシュであの暗い塔内できちんと写っていたのかどうかはわからないけれど。

旅行から帰ってきた後、僕たちにとっても印象深かった彼女の写真を撮っておけばよかったと話した。あれを撮ればよかったなどという話は、どんなに撮影してたって必ず出てくる。ぼくもそうだなあ、残念だったなあという気がする。
でも、このちょっとしたやり取りのことを今でもたまに思い出す。ポラ写真をあげた彼女も、きっと旅行の思いで写真を眺めた時、思い出してるはずだ。そう考えると、ポラロイドを持っていってやっぱりよかったなあと思うのだ。。