欲望の船(6・終)



[長くなったので三行であらすじ]
ベトナムハノイから奇岩ハロン湾一泊二日クルーズツアーに参加した俺は、ツアー参加者のホモ米国人マイクに執拗なアタックを受けて身も心も疲弊しきっていたが、ホテルでようやくまともな日本人のオバサンと会えた。




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ホテルのテラスで話のわかるオバサンと30分ほど話していた。
ハノイに戻ったらご飯でも食べにいこっか?」
『いいっすねー。ぜひ行きましょう!』



陽は暮れていた。夜になると街灯も少なく、真っ暗になる街のようだ。俺はオバサンと別れて自室に戻る事にした。



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ホテルの部屋は日本のビジネスホテルくらいの部屋で、薄暗い室内に二つのベッドが並んでいた。俺と一緒の部屋になったもやしポッターは19歳のイギリス人だった。高校一年生と言われても違和感のないようなあどけない顔にひょろっとした体格をしている。


『一人で旅行してるんだ?』
「うん、ベトナムの前はカンボジアから入って、これからハノイに戻ったら少し滞在してラオスに向かうつもりさ。その後は…色々なアジアを3ヶ月かけて周ろうと思っているんだ」


おおお…コイツもやしに見えて意外にガッツあるんだなぁ…。東アジアっつったら彼のいるヨーロッパからはかなり離れているわけだし、色々な国を一人で3ヶ月も回るなんてな。俺はもやしポッターを見る目が変わった。拙い英語で話していると、彼がいかに旅に関して情熱を持っているのかがわかった。


「さて…と、それじゃ…」『ん?』
そう言うともやしポッターはおもむろに半パンを下ろした。おいおいおいおいポッター君な、何をしているんだい?まさかお前もホ…。

半パンを下ろした彼の白く細い脚がおもむろになる。下着は白のブリーフ…19で白のブリーフ…。頭の中を何かがぐるぐると駆け巡っていた。バスの中で俺の太ももをさするマイク、彼が引き連れたイケ面のベトナム人、ホテルの前での俺への執着…。そのマイクから逃れるようにしてこのイギリス小僧と一緒の部屋にした。…そのはずが、なんでこいつまでこんな事になってしまったのだろう…。



というような事が0.3秒のうちに頭を駆け巡ると、ポッターは半裸のまま半パンをたたみさっさと布団に入ってしまった。
「先寝るよー。おやすみー」



…な、なんだよビビらせるんじゃねえよ…。どうやらマイクのせいで疑心暗鬼になってしまっているようだった。



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翌朝。

宿泊したホテルを後にしてツアーバスハノイへと帰ることに。当然のように横にはマイクが滑り込んでくる…なんちゅー予想通りの展開か。
「なあVES、ハノイではどこのホテルに止まるんだ?一緒のホテルに泊まろうぜ」マイクは昨晩の鬱憤を晴らすかのごとくよりねっとりとした笑みを投げかけ、太ももを密着させてきて…ぬああっ!そのくせえ息を俺に吐きかけるんじゃねえええっっ!!


数時間、正直気が狂いそうになった。生き地獄とはまさにこのことだろうと思った。だが希望は一つだけあった。このバスさえ、このバスさえ降りられればようやく二日間に渡る悪夢から開放されるのだ。俺はマイクの話を左耳から右耳に素通りさせながらその瞬間が訪れるのをジッと待った…!







ついにその時は来た!



『お疲れーす!チィーース!!』


俺はバスが着いた瞬間速攻でバスを降り、外に出てもしばらく息が切れるまで走った。「おいVES!」後ろからマイクの声が聞こえたような気がしたがもちろん無視した。心臓が高鳴り、足が止まった頃後ろをみやってマイクがいなかった時心から安堵した。やった!俺はとうとうアイツから逃げ出すことができたっ!!



『………あっ!』




喜びを噛み締めると同時にある事に気づく俺。マズい、話のわかる日本人のオバサンに挨拶しないで出て来ちゃったし、ホテルも聞いてない…。うわ、めちゃくちゃ嫌な別れ方しちゃったなぁ〜…まいった…。


翌日。ハノイ市内であのオバサンとはゆっくり話してみたかったけど…と思いながら歩いていると、なんと前方からあのオバサンが歩いてきた。おおっなんちゅー偶然じゃ!「オーイ!」とオバサンは笑顔で手を振ってきた。手を振り返す俺。おーこれってかなりラッキーなんじゃね!?昨日のことを説明せねば…と思ったところ、笑顔のままオバサンは俺の横をすり抜けていった…。はい?
後になって考えてみたが、多分バスから一目散に逃げ出した俺を見て、オバサンは避けられたとか思ったんかなーと。いやいや本気で俺はオバサンとのんびり飯でも食いたかったんですけど、あの時あの瞬間はマイクから逃げ出すことしか頭になかったんだよ…(泣)


と、いうわけでせっかくの船旅も、オバサンとの出会いもマイクに台無しにされた気がして、今思い出してもすんげーーー腹立つんですけどおおおおお!!




終わり。




※半年以上かかって書いた旅行記ですが、元はといえばハロン湾のクルーズ船が転覆するという事件があったことがショッキングで、書き始めました。被害に会われた方にはお悔やみ申し上げます。