欲望の船(1)


ま、結構前の話になるんだが。
ベトナムハノイに行った時の話だ。ベトナムは日本みたく(?)南北に細長い国で、南には商業都市ホーチミンがあり、北には首都ハノイがある。俺はそれまでよくホーチミンに行ってたのだが、たまには気分を変えようとハノイを訪れる事にした。



空港からのタクシーが市内に着き車が止まった瞬間、ドライバーがメーター料金以上の値段をふっかけてくる。軽く無視してメーターの料金を支払おうとすると運転手はすごい形相で俺の肩を掴んで止めてくるのだった。そう…この国はこんな感じだったんだっけ…。
『寝言言ってんじゃねー!』「いやもっと払え!!」というようなやり取りを叫んでいると、気付くと周りには二十人くらいの人だかりができてきた。娯楽が少ないせいでちょっとした出来事にすぐ人だかりができてしまうのである。




10分くらいそれを続けた後、ついに運転手は諦めて走り去っていった。ベトナム人がこうなった時ったら本当にアグレッシヴなんだよな。明らかにボッたくろうとしているのに「警察呼ぶぞ」とか平気で言うから。呼ばれて困るのはお前じゃねーの?って感じなんだが。
ただ俺はベトナム人にこう言われた時、ずるい奴だなぁ…とは思えないんだよね。強い…ってか、自分が悪いかもしれないって疑わないところ?ある一方で羨ましかったりしてたんだ。まぁ昔の話だよ。




肝心のハノイはどうだったかって言うと、一言で言えばホーチミンより田舎だなぁ…という印象だった。南北に碁盤の目のように走る道路(確かそんなだったハズ)は街をわかりやすく形作っていたし、低い建物と道路の両脇に続く青々と茂った街路樹は穏やかでのんびりとした雰囲気を醸し出していた。けど俺はホーチミンの喧騒にあまりにも慣れすぎていて、それを退屈にしか思えなかったわけだ。


おまけにとどめに純白のアオザイを着ている伝説のアオザイ女子高生の写真を撮るのを密かに楽しみにしていたのだが、ハノイではそれを着る習慣がないのか、時期が悪かったのかハノイにいた間に遭遇する事はなかった…。あてが全部外れた時って、デートのはずが待ちぼうけを食らわされた時みたく、頭が正常に働かなくなる。俺は連日街の中心にあるホアンキエム湖の公園で何をするとはなしにヌボーっとしていた。




ベトナムは広い部屋のホテルが割と安い値段で取れる。)



そんな数日間を過ごしていた俺は、これではイカン!と思って市内のツアーオフィスでハロン湾への1泊2日の小旅行を申し込む事にした。一人旅だったが、その二日間は港までのバス、ハロン湾でのクルーズ、そして港町でのホテル…と他の旅行者と寝食を共にすることになる。その中で俺はある男と会う事になるのだった。




次回こんな感じのクルーズ船の話。


(続く)