欲望の船(2)


現地の旅行会社でハロン湾行きの小旅行を申し込んだ俺は、当日の朝旅行会社の前に止まっている大型のバスに乗り込んだ。所要時間2時間半〜3時間をバスで移動し、奇岩ハロン湾を船上で見学した後とある港町(名前忘れてしまった)に一泊するという予定だ。

俺は旅先では同じ日本人とあまりつるみたくない派だった。旅先でまで日本人同士気を使うのは正直面倒くさい。だから、早目にバスに乗り込み奥側のシートに腰掛けた後、乗客の大半が日本人だったりしたらせっかくの旅行気分が台無しだなぁ、などと勝手な事を考えながら、バスに乗り込んでくる人を眺めていた。


アメリカ人っぽい)欧米人、欧米人、欧米人…ベトナム人…、あ、日本人の女性…おばさんがいる。通路をすれ違い様お互いが日本人なのだと認識した。なんだかんだで一人くらい日本人がいるのは少し嬉しかったりする。でもバスが埋まりきった頃、結局日本人は俺とそのおばさんだけのようだった。あとで少し話しかけてみよっかな…。



欧米人の大半はどうやらアメリカ人らしい、彼等は申し合わせたように一様に百貫デブだ…。俺の横に腰掛けたマイクもまあ他のアメリカ人ほどではないが、ややデブった男だった。


彼が他のアメリカ人と少し様子が違うのは乗り込んできた時から既に気がついていた。彼が入ってくる時にぴったりと後ろに着いてきていた二人のベトナム人の若者。マイクとは対照的に痩身な彼等はベトナム人の優男が持つ甘いルックスをどちらも備えている。ただ気になった事は二人とも全く楽しそうな表情を浮かべていず、どこかうつろな表情でマイクの後を歩いていた。マイクが俺の隣に腰掛けると、彼はまるで二人のベトナム人の主人のように命令的な口調で後ろの席に座る事を命じた。ぴくりとも表情を動かさず腰掛ける彼等。なにか薄気味が悪かった。


                      ※


『ふ〜〜〜〜〜〜っ………』


一時間後、嫌な予感はさっくり的中していた。隣に座っているややデブのアメリカ人マイク。こいつあからさまにホモ嗜好の変態野郎である。話しかける度に身を乗り出してきて、俺の太ももに手を置きさする。首筋にねっとりと生暖かい奴の吐息が当たり、不快指数はうなぎ登りに上がり続けていった。なんだこの拷問は…。俺の思考はこの時一点、一刻も早くマイクから解放されたい…それだけとなっていた。


地獄のような数時間が経ってからバスは港に到着した。俺は極力自然を装ってマイクから離れるように船に乗り込んだ。



船はそこそこの大きさで、5〜60人くらいは乗れるだろうか。一階部分がソファとテーブルのある船室で、階段を上がるとデッキという構造だった。
日差しはそこそこキツかったからほとんどの人が空調のきいた船室でゆったりとソファに腰掛けた。奥の方のソファにマイクと例のベトナム青年二人が陣取っていて、やはりマイクは脚を組んで王様の様に座っており、ときおり窮屈そうに座るベトナム青年の肩を抱いたりして、そこだけ異空間のような雰囲気を醸し出していた。マイクと目が合ったが、知らんふりをしてデッキに出た。



(続く)