デリー3 インチキチケット旅行会社

夜ビールを求めてメインバザール周辺をさまよった前に、一度タナカさんに言われてニューデリー駅に行ってたんだった。そちらの模様を先に紹介したいと思う。



翌日タージマハールのあるアーグラーに行く予定だったタナカさんは、どうしてもこの日のうちにアーグラー行きの鉄道チケットを購入しなければならなかった。



人で溢れかえるニューデリー駅はメインバザールから歩いて二分ほど。目と鼻の先にある。この駅には外人旅行者向けのチケット購買窓口があるのだという。そこでなら英語で簡単にチケットを買えるのだそうだ。それは逆に通常のインド人向けのチケット窓口では、外国人が購入するのは厳しいのだという事を示している。が、俺はそんなの信じてなかった。だってチケット買うだけでしょ?行き先と日付言えれば通じるんじゃないの?って思ってた。



6〜7個並んだチケット窓口の前は広場のようになっており、券を買うために並んでいるインド人、鉄道待ちか座ってダベっている者、あまりにも暇なので横になって寝ている者などが大勢いた。鉄道の時刻表は英語とインド語を交互に表示し、売り場の隅には講義机のような机の奥に自動小銃を持った兵士が油断なく目を光らせている。

『外国人用のチケット売り場があるって聞いたんだけど…』とそのへんのインド人に聞いてみると、少し悩んだ後一番右端の窓口を指し示された。ほう…あそこか。とりあえず列に並んでみる…すると、インド人の行列マナーが最悪なのだった。


まず絶えず自分の前に後ろに、横入りしようとしてくる奴が多い。それらを阻止していると、列がちょっとでも前に進み、自分もそれに着いていくのが遅れると後ろのインド人が「さっさと進めや!」と猛烈に怒り出す。窓口付近になると小銭を手にしたインド人が「このお金で順番譲って」と声をかけてくる。
なんちゅうこらえ性のない奴等なんだろ。たった十数分の事を待つのが嫌で、賄賂を渡してくるのである(ほぼ全員のこの手の連中は順番譲りを断られていた)。

そしてようやく俺の番…かと思いきや、窓口と話しているにも関わらず、後ろの奴が俺の脇の下から手を出して「〜のチケット売ってくれ」と窓口に詰め寄る。『ふざけんな俺の番だろが!』とそいつを押さえていると三番目の順番のインド人がまた脇から手を……キリがない。



バスケのディフェンスのように後ろ手でそいつらを抑えながら窓口にチケットを買いたいと告げると、「ハァ?外国人はここじゃないから」と左の方の窓口を指し示される…んだよさっきのインド人適当な事言いやがって…。うう、疲れるなぁ…。



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行列二列目。俺はここらでインドの行列の並び方がわかってきた。要するに相手に舐められてはいけないのだ。不正に割り込んでくる奴は断固阻止し、窓口近くで順番を守れない奴には怒鳴りつける。でも相手は全く悪びれもしない。こっちがこのくらい強い態度で抵抗することでやっとイーブンな状態なのだ。





『チ、チケットを買いたいのだが…』



「ハァ?英語わかんねーし」窓口の太ったオヤジは肩をすくめると、知らねーよ、といった体でそっぽを向いた。おいおい…また騙されたよ…。一体その外国人窓口とやらはどこに存在すんだよ!!そして質問された事がわかんねーならわかんねーと言える勇気を持てよ!!





と、思ってたら広場の端の方に外国人窓口と書かれた看板と二階へ上がる階段を発見した。



「あーっここですよ!!」タナカさんが声を上げる。…が、よくよく看板を見ると閉館時間が夜の20時になっている。時刻は既にその時間を回っていた。まあ、一応階段登ってみましょう…。と、階段の途中に痩せぎすの背の高いインド人が立っていた。彼は俺等を見るなり「外国人窓口か。残念だがもう閉まっている。二階のオフィスがしまってからは別の場所で手続きをする必要がある。俺についてこい」



『とてつもなく嘘くさいんでいいです。俺等は二階に上がりますから』横をすり抜けようとすると、「待て!絶対ダメだ!」と力づくでなにがなんでも二階に行かせないようにするインド人。なんてアグレッシヴなんだ…。

「でも確かに二階のオフィスは閉まってる時間なんですよね…俺一応こいつに着いてってみようかな…」タナカさんマジっすか…。


「最初っからそう素直になればいいんだ。なーに騙したりなんてしないから心配するな(意訳)」うん、めっちゃ胡散臭い…。まいーや。俺は今日チケット買わなくてもいいわけだし。面白そうだからついてってみよ。



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インド人が案内したのは道路一本挟んだ駅の向かい。メインバザールの入口近くのカレー屋の二階だった。
狭い階段を登ると三畳ほどの細長い部屋があり、長机に太ったオヤジが腰掛けている。よくきたな。さあ座れ。「明日アーグラーに行きたいんですけど…」「なに!?アーグラーか。ちょっと待ってろ…」PCでチケットの検索をするオヤジ。「650ルピーだな」




650ルピー!1300円!うおっ!





相場がわからないので高いのか安いのかわからん…。




だがデリーからアーグラーまでは2時間ほどの鉄道の旅だと聞く。それで1300円ってのはインドにしては高いんじゃないか?えぇ、オヤジ。タナカさんこいつ信用していいんすかねぇ…。



「心配するな!うちは政府公認なんだよ!インチキじゃない」オヤジは後ろの壁の上を指さすとそこにはガバメントショップという看板があった。うーむ…オヤジの言ってることは本当なんだろうか…。とにかく、相場がわからんので何とも言えん。



『他の店も探してみます?比較できればここが高いのか安いのかも…』


「いや、もう俺ここで買いますよ。他探して見つかる保証もないし、1300円なら…」タナカさんがそう言うなら、まあいいが。そうして彼はオヤジからチケットを購入した。オヤジがこっちを見て、「お前もアーグラー行くんじゃないのか?タージは素晴らしいぞ?」と俺にもチケットを勧める。いや俺は明日買うからいいっスよ…(外国人窓口で)。



考えてみればあの駅の痩せぎすインド人は、外国人専用オフィスが閉まったあたりの時間にアホ面下げてノコノコやってくる旅行者をカモにすべく階段で網を張っていたんだろうな。とはいえ、急いでいる場合はオフィスが閉まってから券を英語で買うとなると、ボッタクリ?チケットを買わなければならないところがうまいところついてる。短期旅行者の心理だ。
明日俺はデリー滞在だから外国人専用オフィス行ってみよ…。そう考えてタナカさんと駅を後にした。