デリー・2 隠れながらビールと停電の国

夕暮れ時のメインバザールをうろついていると右左に沢山のホテルが立ち並ぶ。その中から妥当なホテルを探し当てる前に、ひとまず腹ごしらえでもしようということになった。「ここがよくないですか?」タナカさんが指し示したのは通りに面するヴァルファーレというカフェだった。




ここは白人系パッカーの姉ちゃんが、音楽に耳を澄ませながらゆるゆるとスケッチブックにファンシーな絵を書いちゃうような小洒落た店。バックパッカー街にはこういう店が必ずある。





俺はここでインド初のカリーを注文。ほうれん草のカレーとマッシュルームのカレーか。
『タナカさんカレー食べないんですか?』彼が頼んだのは炒飯とオニオンスープだ。 「いや僕旅先では食べ物には気を使ってるんですね…屋台とか基本的に無理!安全そうなものしか食べないようにしてるんです!お腹壊したらせっかくの旅行楽しめなくなっちゃうじゃないですか」

ふーんそんなもんか…現地のご飯食べるのも旅の楽しみじゃないのか…とは考えたが口には出さず、まあそういう考えもアリか、という反面せっかくだからカレーにもチャレンジしてみればいいのに…とか、この時は考えてた。


「ブブッ……!VESさんヨーグルトには手をつけないんですか?wヨーグルトにはw」
『い、いや…ヨーグルトはさすがに危なそうなんで…』俺も人のこと言えないか。肝心のカレーはまあ美味かったが日本のインドカレー屋みたいな味だった。




その後スターパラダイスというホテルをとった俺達は、せっかくだから夜中のデリーを探索してみよう。ということで再び外へ。メインバザールのニューデリー駅側の入口付近には沢山のカレー屋が立ち並んでいる。「ビールが飲みたいんすよねえ…ビール…」タナカさんがもの欲し気に呟く。




が、立ち並ぶ店の店頭に冷蔵庫があって、その中に瓶ビールが並んでいる、という光景がここにはない。立っていた店員に尋ねたところ、こっそり出すから。というのが彼の答え。ヒンドゥーの教えかなにか、宗教上の理由で公に酒を出せないのかもしれない。俺等は一軒の店の奥側に座らされた。
ややあって、店員が人目をはばかるように布にくるまれた瓶を持ってくる。そら、ビールだ。 『どうっすか?』「これは……ちょっとぬるいですね…」とはいえ、喉を鳴らしながら飲むタナカさん。俺はというと、本日二度目のカレーを注文していた。
インドのカレーはベジタブルカレーが多い。先ほど食べたものは野菜のカレーだったので、チキンカレーが食べたい。と告げると、少し時間がかかる。といって店員はどこかに消えた。鳥肉をどこかに調達にいったようだった。こちらのチキンカレーはガツンと辛味のある香辛料の香り豊かな一品。鳥肉は柔らかいとは言えないが歯ごたえがあり、白米が欲しくなったがこれをチャパティで食べる。





と、突然店内の電気が消え、外の街灯、街中の電気が一瞬にして落ちる。停電だ。インドにはままあることだとは聞いていたが、初日からあるとは…。この一時的な町中の停電には道中何度も見舞われた。よくあるらしい。
店員は別段驚いた風もなく調理コンロの下から二人がかりで何か大きなものを店外に運び出すと、バイクのエンジンをかけるような仕草を繰り返す。ややあって店内にだけ電気が灯る。外の街灯は未だ復旧していない。予備電源のようだった。
こんなところで俺のカメラや電子機器はきちんと充電できるんだろうか…それらが充電できないと写真も撮れなくなる。そんな事を考えていると、ほろ酔い加減になったタナカさんがいきなりとんでもないことを言い出した。



「ふーっ…やっとビールも飲めたし…VESさん、今度は…女の子遊び…したくないっすか…?」



わー段々この人ワガママになってきてるよwホテルで寝たいんすけどwww