バラナシ2・同行者たち
バラナシ行きの飛行機が降りようかという時、声をかけられた女性に期待しまくりんぐでゆっくりと首を振り向かせた俺。
(やばい俺のインド旅行楽しくなってきたwww)クルーリ!
『………………………』
いやいや、俺も人様の容姿に文句つけられる資格はないっすよ?別にかっこよくないし。ただそう、想像とちょっと違ったかなーというか。なんつーか、普通?の女の子がそこには二人立っていた。
彼女らは香港人のyui(仮名)とfanny(仮名)と名乗った。共に23歳。
yuiは眼鏡をかけておっとりとした顔立ちに低い身長、少しだけぽちゃっとした印象。対してfannyはすらりと伸びたのっぽさんで痩せ型。バラッとした肩までのセミロングにやっぱり眼鏡。西遊記で言うと沙悟浄みたいな感じ。
昔香港旅行をした時にツアーの添乗員が「かつて秦の始皇帝が香港の九龍半島まで後宮の美女を探しに来たが、ついに誰一人連れ帰ることもなく引き上げて行った」という本当のような嘘臭い話をしたのを思い出した。
あながち信憑性がないとも言えない。なぜなら確かに香港に生まれた生粋の香港人の中で綺麗な人というのを知り合いや、街中で見かけることがほぼ皆無だからだ。lineたんはちょっとかわいいとは思うけど。
まあそんな話はどうでもいいよ。それで俺は結局彼女らの申し出を受けることにした。
バラナシの空港からバラナシの街まではタクシーで一本で、という訳にはいかない。車両が入れるエリアはいわゆるガンガー(バラナシを流れる聖なる河)沿いよりもずっと前で、そこからはオートリクシャーという三輪バイクの後ろにシートとほろがついたようなミニタクシーのようなものでないと行けないのだ。
「とりあえず空港からのタクシーで行けるところまで行ってもらいましょう。交渉は私にまかせて」
fannyがそう言った。何人かのタクシーの客引きのうち彼女は一人を選ぶと、三人で500ルピーという値段にまとめてきてくれた。旅慣れているようだった。
まず空港からタクシーで30分ほどの場所まで移動。デリーでは一日も雨に降られなかった俺だが、バラナシに着いた途端雲行きはどんよりとしていて時折降ってはやんだりを繰り返していた。俺はと言うと30分だんまりするのも気まずいので彼女らとのコミュニケーションを取ろうとしていた。
外人さんとの第一歩の壁を乗り越えるには、その人の出身国で知ってる事について羅列しとけばよい。自国の事に興味を持ってくれる人にはとりあえず親しみを感じるだろう。俺は特に香港が大好きだから話題については事欠かなかった。が、彼女らもまた快活で話しやすかった。フツーな感じの女の子だから、変に気を使ったり緊張したりしなくていいのが楽なんだろう。多分。
(ガンガーに行く途中で飲んだチャイ屋。こっちの地方はチャイ屋の容器もプラスチックから素焼きのぐい飲みみたいのになる。)
「ゴードゥリヤーまで行ければガンガーはすぐのはずなのだけれど…やられたわ。まるで正反対」
タクシーを降りオートリクシャーに乗ってガンガー近くまで行くつもりだったが、何をどう間違えたのか運ちゃんは反対方向の鉄道駅前で三人を降ろした。これも交渉をfannyがしたが、彼女の失敗というよりは運ちゃんが早とちりのアホだったのだろう。倍の値段を払ってガンガーに行くのは悔しかったので、結局徒歩で行く事にした。
50分ほど歩いているとまばらな民家群は次第に商店群になっていき、活気が出てくる。ガンガーはどっち?と通行人に聞けば方向を間違えることはない。雨が本降りになりかけてきていたがゴールは近そうだった。
商店が軒を連ねるでかい通りを抜けようとすると、ついにオートリクシャーも立ち入れないエリアへと移る。道の向こう、商店と民家の壁の向こうにモスグリーンの大きな河が垣間見える。これがインド人の聖なる河、バラナシのガンガーだ。俺達三人は足早に河の方へと向かった。
階段を降りていってガンガーの前に出る。おお!これがガンガーだよ!!ついに来たんだぜ!!…わあぁっぷ!
感激に浸る間もなく、雨は激しさを増し風が吹きすさんでいた。この時インドは確かに雨季だったが…おいおいバラナシまで来て天気ずっと悪いとかじゃねえだろうなぁ…。台風本ちゃんの40パーセントくらい…それくらいに天候は崩れていた。
「と、とりあえずっ!宿決めないと!宿。きゃああー」
yuiの折り畳み傘が危うく吹き飛ばされそうになる。どこの宿にしようものか悩んでいると、河に面した重厚な石造りの建物の脇から、いつの間にかインド人がこちらに歩んできていた。
3に続く。