バラナシ8・カレーは手で口に運んでみる a

夕食を食べに行く事になった。

ダシャーシュワメード・ロードを抜けてゴードウリヤー交差点へくる。この辺りがバラナシ初日にfannyがオートリクシャーで来たかった場所だ。


車関係全て入場禁止のガンガー沿い、その裏の路地とは違い、道の左右に飲食店、宝飾店などがずらりと立ち並ぶ騒がしい通り。こちらはまだまだ人の往来が多く、明るかった。




俺はガイドブックに地球の歩き方を持っていたが、yuiとfanny達も持っていたのは同じ本の中国語版だった。この本は色々な言語に翻訳されて各国で出版されているらしく、日本人だけのガイドブックではないのだ。



fannyが提案したのは、地球の歩き方に載っているケサリという名のベジタリアンレストラン。腹の減った俺達は各自カレーを注文することにした。ナンかライスか迷ったが、俺はライスを選択。
カレーとライスで200ルピーくらいだったかな?銀色の食器に盛られた料理がやってくる。俺が頼んだものはマッシュルームとチーズのカレー。スプーンでまず一口食べてみる。

複雑な奥行きとスパイス感のあるカレーに粗切りされたマッシュルームの存在感と香り、そしてそれらをチーズがまろやかに包み込んでいる。うん、ウマイ。




インドのカレー屋には大きく分けて2種類がある。一つは一食十数ルピーという現地人向けの安い屋台などのカレー屋。こちらはカレーがあまりもったりしていなく、サラッとした汁状のものに肉が入ってたり豆が入ったりしているようなものが多い。もう一つはケサリのような、100ルピー以上のある程度価格を取るレストランでのカレー。

後者のカレーの味はやはり前者に比べると奥深さという点で圧倒的である。だが、日本で食べるインドカレー屋の味を想像してもらうと、それに近い。この事には仮説が立てられる。
現地人向けの安いカレー屋、ある程度お金を取れる中・高級カレー屋。日本に来てまで商売をしようと考え、それを実行に移せる資金があるのはどちらだろうか? 考えるまでもなく中・高級カレー屋の方だろう。結果、日本人に馴染みのあるインドカレーの味というとこちらになってしまうのではないだろうか。よって、こちらのカレーも確かにウマイが、インドでしか味わえないカレーを味わいたいと思ったならば、本当は屋台などの安いカレーを食べるべきなのかもしれない。




                        ※



まあそんな適当仮説はインド式トイレにでも流してしまえばいいのだが、今回俺がナンではなくライスを頼んだのにはワケがあった。

初日にタナカさんと二軒目に行ったカレー屋で、隣に座っていたインド人の中年オッサンがやはりカレーをライスで注文していて、それがやけにうまそうに、そして鮮やかな手つきで手で食べていたからである。

タナカさんの雑談を聞くフリをしながらオッサンの動きを盗み見ていたところ、食べ方はこうだ。まずカレーの入れ物から右手の指先でオタマのようにカレーをすくい、ライス皿へと移す。そこに今度はカレーと丁度合うくらいの量のライスをひとつかみ、やはり右手を使って落とし、これらを入念に指先で混ぜ合わせる。




(ケサリ店内)


その指先の動きがすごい。慣れている…を飛び越えて、精密機械なのである。まるでカレー&ライス攪拌機とでもいうかのようによどみなくスピーディーに指が動くのだ。そうして混ぜ合わされたものをやはり右手でまとめて指先から口に運んでいき、食べる。この一連の動作がいかにもインド風で、俺の脳裏に強烈に焼きついた。
一軒目のカフェカレーにもライスはついてきていたのだが、俺はそこでは普通にスプーンで食べていたのだ。


やっと…あれから随分時間が経って、やっとインド式にカレーライスを食べる日が来た。俺は空手の貫手のように指先を揃えると、慎重にカレーへと手を運んでいった。いくぜ!インド式カレー食事法!!





bに続く。