バラナシ9・カレーは手で口に運んでみる b /光る謎の行軍




「俺ってちょっと食事にはうるさいんだよね〜」



その友人は言い放った。学校の帰り道、神保町で夕食をどこかで取ろうと話し、店を探していた時のことだ。





『いもやっていう人気のある天ぷら屋にでもする?』


「え〜天ぷらかぁ〜。天ぷらは油の揚げる音の変わる瞬間で丁度いい揚げ時のわかる職人じゃないとおいしくないからなぁ〜」


『そ、そうか…。じゃあ回転寿司にでもすっか?』


「回転寿司?回転寿司って俺苦手なんだよなぁ〜ネタが新鮮じゃないし、シャリが固いんだよ。シャリってのは適度な空気を米と米の間に含んでないと口の中でネタと一緒にときほぐれ…」


『ピクピク…じゃ、じゃあお前が選んでいいよ。お前のお眼鏡にかなう店をよ!!』


「え、俺!?う〜〜〜ん、じゃあ…ジョナサンにするわ!俺ジョナサンのメキシカンピラフは好きなんだわww」




『……………………!!』






ズッコケ三人組〜!wってレベルじゃねーぞ!! 散々文句言ってジョナサンならいい理由ってそれ、一体なんなんだよ!それからついでに言ってやると、ってか俺は優しいから口には本当には出さなかったけど、お前の料理のウンチク、全部『美味しんぼ』からきてるじゃねーーかよ!俺は古本屋で美味しんぼの1〜50巻買い揃えたから全部わかってるんだっつーーーーの!!w







…まあこういうわけで、美味しんぼネタはうかつに口に出すと意外とバレやすいから扱いには注意な。割とみんな知ってるから。影で山岡さんって呼ばれちゃうから。



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ドキドキしながらカレーに指先を突っ込む俺。う…少しあったかい。カレーをすくい、皿に盛る。そしてパラパラとしたインディカ米を一つかみし、それをカレーとぎこちなく混ぜる。それをシャベルのようにすくうと、指先が口元に対して垂直にいくように持ってって食べるのだ。
この体勢は慣れていないとちょっとやりづらい。読者諸君は試しにやってみるといい。体が固い人は腕がつるかもしれんw が、インド式で食べるカレーライスは、うまかった。



この感想を自分の言葉で書かなければならないところだが、それには美味しんぼインドカレーの回の印象が俺には強すぎる。なので言葉を借りたいと思う。
内容はざっとこうだ。『普通はスプーンで食べるカレーはスプーンの金属の味という余計なものまでついいてきてしまうが、指と言う有機物を使って口に運ぶカレーは、スプーンで食べるよりもずっと自然な味がする』というやりとりが美味しんぼには存在する。



確かにスプーンで食べるよりも柔らかい口当たりだ。中々うまい表現だと思う。実際のところは普段スプーンで食べなれている俺等にとって、指でダイレクトに口に運ぶと言う新鮮さが加味されて、脳内でよりうまく感じるのだと思う。しかし俺はインド式カレー食事法がすっかり気に入ってしまった。中々いいよ、コレ。



俺が食べるのを見ていたfannyとyuiは「ねえVES私達も少しライスもらってもいい?」と、インド式食事法を楽しそうに真似する。うん、これさ、確かにいい食べ方だと思うんだけど、最後に疑問が残るんだよな〜。
右手でどんなにカレーとライスをうまくかき混ぜて食べても、唾液とカレーの油のついた右手を最後にどうするのかってこと。ベトベトになるじゃん。キモいじゃん!ナプキンで拭いても、油残ってるじゃん!


…ってわけで、俺等三人は結局最後に交互にトイレに言って手をよく洗う事になった。うーむ、フィンガーボールがあれば完璧だと思うんだけどなあ…。



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さーて腹もいっぱいになったしGH(ゲストハウス)に帰って明日に備えて寝るかー!と帰路についたところ、道の後ろ側からどんちゃんどんちゃんという浅草サンバカーニバルのようなけたたましい音が聞こえてきた。な、なんだよ…。




見ると奇妙な行進がこっちに近づいてくる。

先頭に太鼓、管楽器などを持った楽隊が狂ったように音を立ててリズミカルに曲を奏で、その後ろに大人や子供の入り混じった踊り子達が続く。更にその後ろにはこれが一番奇妙なのだが、子供が部屋の蛍光灯をむき出しにしたようなものを頭に抱えてそれらを光らせながら行進しているのだ。




行進は一様に嬉しくて死にそうな顔をしながら笑顔を周囲に振りまいていて、踊り子の部分では通り行く通行人を巻き込んで、次から次へと手を取り即興のダンスを踊らされるのだ。
ポケーと見てたfannyが行進の少年に手を取られ、あれよあれよという間に踊らされ、右に左へせわしないステップを踏んでいる。だっはっはっは!よくわからないままに踊り続けるfannyを見てたら笑いがこみ上げてきてしまった。


あー…笑いすぎて涙が出るわ。どうしてこの街ってこんなにサービス精神旺盛なんだろな。イベントフラグ多すぎだろw




やがて嵐が通り過ぎるかのように、通りの奥へと踊りながら消えてゆく行進。『で、結局あれなんなの?』と近くの者に聞いたところ、なんでもあれは結婚式らしい。はーあれが結婚式!ってか夜にやんの!?エネルギッシュな式だよなぁ…。
ガキンチョが大きな蛍光灯抱えながら歩いてたけど、あんなむき出しの蛍光灯をフラーッと落として割ったりしたら結構大惨事になるんじゃないか、と思うんだが大丈夫なんだろうか。落として割る子絶対いるだろ。どーなってんだ。そんな細かい事はきにしねーのか。
インドには本当に謎が多い。


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「じゃ、明日は午前4時半よ」


『オッケ、寝坊すんなよ』



GHにようやく帰り、一人になった俺。軽くシャワーを浴びてベッドに横になる。はぁ…今日一日だけですんごい盛りだくさんな事がありまくったなあ。最後の最後まで飽きると言う事のない一日だった。にしても…
さっきの行進はまだ続いているのか、窓の外からはしばらくの間ずっと行進の楽隊の音楽が聞こえ続けてきたのだった。どんだけ街練り歩いてんだよ!w寝れねーじゃねーかよ!
うるせーなあ…と思いつつ、行進が終わったのが先か、意識が途切れたのが先か、いつの間にか音は聞こえなくなっていた。





10に続く。