バラナシ11・蹴りたい背中 a


日の出を無事見終えた俺等は一旦GHで仮眠を取った後、遅い朝食を食べに出かけた。



一軒行ってみたい店があったのだ。



(バラナシの裏路地は建物の間にこんな看板がぎっしりと並ぶ)


ダシャーシュワメート・ガートの付近を散策しているとそこかしこに設置されている「GERMAN BAKERY」という広告看板。直訳すると言うまでもなくドイツ風パン屋である。その看板を幾度となく見ている内に、俺等はいつしかその店のパンに心を奪われていた。…ナンやチャパティではなく、そろそろ普通のパンや食事が恋しくなってきていたのだ。



「この道を入ったところから500mだよ」「ここを左に曲がってね!」「あと30mだよ!」といった、いやーに細かな看板指示に従って誘導されていく。ついに見つけたGERMAN BAKERY!俺達は寒く凍えた体で家に帰ってきたところ、熱々の風呂が用意されていて嬉々として風呂場に向かっていくような気持ちでその店に入っていった。




細長い店内に入るとまばらに客が入っている。欧米人のパッカーっぽいのが数人と、日本人の女が一人。席についてメニューを見てみると、な…ジャーマンベーカリーとかいう割には、パン系のメニューがサンドイッチしかないのである。
お、おかしいぞ…俺の想像では小洒落た内装の店内にガラスケースがあり、カレー味などもってのほかの欧米風パン達や、芳醇なバターの香りが立ち上るクロワッサンちゃんなどが所狭しと並べられていて、入れたての熱いコーヒーと共にそれらを食べる店だったはずなのに…。


メニューは主に国別に分けられており、中華料理、韓国料理、洋食、日本食イスラエル料理など、バラエティに富んでいる。そんなにメニューがあるのはすごいけどこれのどこがベーカリーなんじゃい!…しかし日本食があるのか!それはカレー味で疲れきった俺の胃を刺激するには十分すぎる単語だった。





「オーあなた日本人デスカ?」

店の奥から出てきた20代半ばくらいのインド人に声をかけられる。彼はシヴァと名乗った。



インド人らしい色黒の肌にセンター分けのショートカットの青年、シヴァはそこそこの日本語でベラベラと以下のような事を喋った。
彼はこの店のオーナーの息子で、大学生の時に二年ほど神戸に留学していた。その為日本フリークで、日本人を見かけると友達になりたいと思っている。近々仕事の関係でまた日本に行こうと思っているとのこと。



『ここってジャーマンベーカリーじゃねーのかよ?』と聞くと、それは隣の店だよ。ここはモナリザカフェという店です。だそうだ。だー!表の看板が紛らわしすぎんぞオイ…。


『それで日本料理があるのか。丁度食べたいと思っていたところだよ。カツ丼とか食いてぇな〜』と言うと、シヴァはよくぞ聞いてくれました!とばかりに目を爛々と輝かせた。



「ふふん、実はウチは醤油を日本の友達に送ってもらって仕入れてマース!だから味には自信ありマース!」と、超得意げに奴は言った。確かにテーブルの調味料置きにはキッコーマンの醤油が置かれていた。おいおい、俺はもうマジでインドカレーには飽き飽きしてたんだよ…。ジャパンのフードが食いたくてたまんなかったわけだよ。

まあここはインドだからな、日本とまるっきり同じもんが食えるとは、図々しい俺でも期待はしちゃいないよ?似たようなモノ、それで俺満足だから。日本食っぽいものが食べられたら、アンタそれで合格だから!




(シヴァ。この顔が得意満面なのを想像したらムカつくだろ)


「ふふん、まかせてくだサイw」再び得意げになるシヴァ。か〜!ドイツパンも食べたかったけどやっぱり日本食!だよね。えーっと何にしよっかな〜から揚げ、目玉焼き、とんかつ……迷うけどカツ丼にしよーーっと!w





読者の皆さんは何を日本食くらいでそんなに浮かれてんだよww と思うかもしれない。が、そこまで日本食が恋しくなってしまうくらいにインド料理は全てがカレーの味がするのだ。何度も言うが、俺達三人はもうインドカレー以外のものが食べたくてたまらなかった。


Yukiは俺が日本食にすると聞いて親子丼を注文。
『親子丼かwそれも絶対うまいから!w日本食ってうまいんだぜぇー!ww』などと、俺は有頂天の極みだった。
Fannyは名前を忘れてしまったが見た事も聞いた事もないようなイスラエル料理を注文した。どんな形をしているのかもさっぱりだったが、好奇心の強いFannyらしい注文だと思った。





「じゃ、厨房にオーダー伝えて来ますカラw」シヴァはそう言って店の奥に消えていった。



あ〜〜〜〜〜〜〜マジで楽しみだワン!w日本食にっほんしょっくにっほんしょっくちゃ〜ん♪ 今なら俺そんな歌を歌えちゃうねw その昔カラオケで耳すまカントリーロードを熱唱し93点を叩き出した俺の美声を聞かせてやんよ!
FannyとYukiも表情が弾んでいた。そうだよ!やっぱり旅ってのは食事も楽しくないといけないもんな!










俺の胸はホテルのシャワーの音を風呂のドア越しに聞いている時の様に高鳴っていただろう。……こんなに浮かれていたのに、15分後に視界が涙で曇るなんて、この時の俺は想像もしていなかった……(泣)。



12(b)に続く。