ジョードプル1・青の街へ〜個室と友達

まいった…。


俺はバラナシからの飛行機が着いたデリーの空港ターミナルの椅子でずっとそう考えていた。隣には同じ飛行機に乗っていたyuiがノートパソコンを開いて香港へ帰る飛行機待ちをしている。

『ちょっと行ってくるわ…荷物よろしくね』
「また…VES大変ね。うん荷物は見ておくわよ」yuiがパソコンから顔を上げて、かわいそうな人を見る目で言う。俺は尻に刺激を与えないようゆっくりとした足取りで向かいのトイレに向かった。


そう、とうとう腹をくだしてしまったのだ。機中のトイレに行った時、便というより水に近い下痢が滝のような勢いで出た。あ、これヤバイ…とうとう来やがったと思った。
原因は考えるまでもなく一昨日飲んだ冷えたラッシーだった。あの時暑さにイライラして三杯立て続けに飲んでしまった。あの清潔そうとはとても言えない店に悪い細菌がいたのだ…。
インドに来てからというものラッシーのような生ものは控えていたはずだったのだが、旅行も中盤に差し掛かったという慣れとあまりの暑さに誤った判断をしてしまったのかもしれない。そんなうかつな自分がうらめしかった。

『ふうぅ〜〜…』ジャー。
幸い空港のトイレは清潔な洋式トイレで、なおかつ個室の横に小さなシャワーがついていて、それによってウォッシュレットのようにお尻を綺麗にできるという至れり尽くせりな作りになっていた。
初めの頃こそ紙ではなく水で洗い流すインド式に辟易していたものの、この頃既に水で尻を洗い流すのにちょっと快感を覚えていた。どこのトイレもこのくらいの機能と清潔さを保っていてくれたら最高なのだが…。


腹を壊してからというもの短い周期で腹と尻に違和感を感じ、トイレで水のようなブツを出してはげっそりとした気分になるというのを繰り返していた。このトイレに来るのももう5回目だ。

俺とyuiはなにをしているかというと、yuiが自国へ帰るフライトの時間になるのを待っていた。俺もこの後鉄道のチケットを予約しているのだが、それは夕方過ぎの時間でまだまだ時間に余裕がある。
今の腹の状態で、どこにきちんとしたトイレがあるのかどうかもわからないのに何時間もデリーの街をうろつくことは危険だと思った。ギリギリまで空港にいたかったのである。


「そろそろ時間だからいかなくちゃいけないけど…VES一人で大丈夫?」
先ほどのトイレからさらに三十分が過ぎた頃、yuiがノートパソコンをしまい荷物をまとめた。飛行機の時間が迫っていた。

『だ、大丈夫だよ』
ホントはあんまり大丈夫じゃないがそう言うしかない。

「そう…それじゃ行くわね。VESまた会いましょうね!」
『うん!俺は香港によく旅行に行くからさ、そしたら必ず連絡するよ』
「必ずね!!」
そう言いながらyuiはゲートに消えて行った。見えなくなるまで手を振る。


『………』
ふー。これでとうとうまた一人旅だな〜。
一人旅は慣れてるし好きなんだけど、気のいい奴らと一緒の数日間だっただけになんとなく寂しさもあった。でも俺もそろそろ空港を出てニューデリー駅へと向かわなくてはならないのだった。



『よしっ、行くか!』キューゴロ〜〜…。。

うっ、、!


…空港出る前にもう一回だけトイレに行かなきゃっ(泣)!


はぁ〜〜俺の今度の相棒はトイレってわけかよ〜…マジ泣けるわ……。


『くっそおおぉ!早く治ってくれよマジで俺の腹さ〜!!』

と、自分の腹の具合を恨めしく思ったのだけれど、その想いとは裏腹にまだまだお腹の細菌は出て行ってくれそうな感じがしなかった…。
ホントにこんな状態で悪名だかいインドの鉄道に乗るのか〜〜っ!はぁ〜〜〜…。





ジョードプル2に続く。