ジョードプル2・青の街へ〜インドの鉄道

軽く夕食を済ませた後デリー駅へ向かったのは搭乗の三十分ほど前。もうほぼ陽は暮れていて、午後6時を回っていた。
デリーからジョードプルまでの鉄道は夜行列車で十数時間といったところ。あちらには昼前に着くことになる。このチケットはバラナシに行く前に事前にニューデリー駅で購入しておいたものだ。

バラナシは正直めちゃくちゃ楽しかったのだが、次の街への期待もあった。そしてアジアの国で独り寝台列車に乗り遠方の街へいくというシチュエーションの興奮が少なからずあった。パッカーならば誰もが一度は憧れる展開ではなかろうか。
これで腹さえまともだったならば…と思わずにいられない。いつ下腹部を襲ってくるかもわからない恐怖に打ち震えながら夜を過ごさなければならないのは目に見えていた。あ〜〜ホント早く治らないかなあ〜…。


さてそろそろ予約した列車に乗るか。とどの番線かを探そうとしたところでかなり迷ってしまった。デリー駅はここから国内の様々な地方へ鉄道が伸びているだけあって、番線が異様に多い。電子掲示板を見てもなぜか自分の探す列車が見つけられず無駄に焦ってしまった。何人かのインド人に聞いてとうとうお目当ての列車についたのは出発の五分前だった。インド列車の予約車両には入り口脇に席予約者のリストが張り出されている。俺はそこに自分の名前を見つけてやっと安堵したのだった。
予約していたのは二等寝台列車ニューデリー駅の外国人用チケット予約センターでは三段ベッドという説明があった。チケットの番号を頼りに席を探すと…あ、ここか〜!


そこには三段ベッドのはず…が、三人掛けの横長シートが二つ向かい合っていているだけで、五人のインド人の親子連れが座っているだけだったのだ。一応彼等の頭上には細長い寝台が天井からあまり高さのない場所にかかっていたのだが、はて?三段ベッド…。

はっ!まずい!!そこでようやく気が付いたのだが、インド人が座るシートのちょうど中間くらいの高さのところに、壁に畳まれているシートがもう一つあった。この車両では就寝時間になるとそのシートを倒し、下段、中段、上段と分けて寝るようになっていたのだ。俺はよりによって中段のシートが割り当てられていた。何がヤバいって俺は腹が痛くて一刻も早く横になりたいのに、中段はこのインド人達が「さ〜そろそろ寝ようか」という気になりシートを倒さないと寝ることができないってことなのだ。


ぐぬおおお〜〜!キツイ、これはキツイぞ。いや別に普段の状態ならばどうってことないのだ。インド人の間の席に座り、ちょっと片言の英語で話してみたり、車内販売の弁当を食べながら窓の外を見たりするのも楽しいかもしれない。しかし今は緊急事態なのだ。そんなことをしていたら気絶してしまうのではないかと言うほど腹は不安要素を抱えていた。こんな時に小さな子供の無邪気な騒ぎ声がしようものなら、鬼の顔で睨んで泣かせてしまいそうだった。普段天使のピュアスマイルと呼ばれるこの俺が。マジで休ませてあげないとヤバい。


『〜〜〜〜………ッ!!』
一瞬の交錯の後、俺は上段のシートに寝てしまうことにした。元々上段が席だった人には申し訳ないが、まあ緊急事態なので許してもらおう。寝るシートの高さが変わったくらいでそんなには怒らないだろう。何か文句を言われたら狸寝入りでごまかすしかない。スマン!上段シートに寝るはずだったインド人!

脇の梯子を使い上段シートに上ると、思ったよりも天井との高さがキツイ。寝るならともかく、上半身を起こしたままでいるのは厳しい高さだ。まず俺はシートを支えている鉄棒に自分の荷物をチェーンで括り付け南京錠をかけた。一人旅なので盗難にもよく気を付けないといけない。そして列車が動き出すと車掌が毛布を配り始めたのでそれをもらって、早速横になった。
ふ〜〜これでなるべく眠ることができて早くジョードプルに着いて欲しいな。腹の調子からすると何回かは列車のトイレに行かないとダメそうだけど。あ〜列車のトイレとか汚そうだしいきたくねえ……。
とかなんとか思いつつ、俺はすぐに泥のように眠ってしまった。




ジョードプル4に続く。