ジョードプル3・青の街へ〜到着


道中何度か目を覚ましてトイレに行った。便器の穴はそのまま車体の下に繋がっていて、つまり線路上にそのままブツが垂れ流しになるというダイナミックな作りだ。
自席に戻る途中で一等車両を通る。左右に個室のようにカーテンを閉められる二段ベッドがあり、広さにもそこそこ余裕があってさすがの一等車両という感じだった。あーあこっちの車両にすればよかったな〜……。

そんなことを繰り返しているうちに窓の外は白み始め、ジョードプルが近づいてきた。やがてあと10分くらいで街に着くという頃、俺は外の景色をじっくり見たくて降車口へと荷物を持って向かった。インドの鉄道車両は走行中でも手動で降車口のドアを開けることができる。危ないのだがそんな危険意識も特になく、やっぱり降車口には大学生っぽいインド人の青年がドアを開けて立って外を眺めていた。

外はまだ建物もなく、荒涼とした砂地と背の低い草木がまばらに点在するだけの風景が続いている。生暖かな風が吹き込んでくるのを意に解さずに、大学生は顔だけを外に出して列車の進行方向を眺め続けていた。

「君は日本人?ジョードプルに来たのかい」
後ろに立っていた俺に気づくと男は俺に話しかけた。そうだよ。
「そうかい。ジョードプルは美しい街だから旅行を楽しんでくれ!」
『アンタはジョードプルに何しに来たの?』
「ここは僕の故郷なんだよ!久しぶりに帰るんだ!早く着かないかなあ」
と言って、大学生は待ち遠しそうに再び街の方角へ目をやった。

俺は東京生まれの東京育ちで、東京を離れて暮らしたことがほとんどない。
だから望郷の念というのをあまり感じたことがないのだけれど、久しぶりに故郷に帰るというのはこんなにも待ち遠しいものなんだなあと、後ろから大学生の顔を見ていた。やがて青々とした外壁の建物がいくつも立ち並ぶジョードプルの街並みが見えてきた。うわあ、ガイドブックの写真で見るよりもやっぱり迫力が違うもんだ!列車が駅に停車すると、大学生は喜び勇んで足早にホームへと降りてゆく。ついに着いたか、ジョードプル

と言って感激ばかりもしていられなかった。依然腹の調子はいいわけではなかったので、まずは安心できる寝床(というかトイレ)を探さないといけない。駅前のロータリーでトゥクトゥクをつかまえて予め行こうと決めていたホテルに向かってもらった。「俺の知り合いがやっているもっといいホテルあるけどそっちにしない?」と何度も何度も運転手の親父が言ってくるので、それをバッサリと切り捨てまくっていく。もう余計なことを言わずにさっさとホテルに行ってほしい。体調が悪いときにこのインド人の商売熱心は中々きついものがあった。

ディスカバリー地球の歩き方にも載っているホテルだ。ジョードプルらしい青い外壁、中の壁も青というのが気に入った。広いフロントでチェックインを済ませると、屋上まで続く吹き抜けを見上げながら階段を上ってゆく。俺の部屋はエアコン付き104号室だったので二階だった。
インドを旅していると段々物価の安さに慣れてきて、エアコンなしの部屋とありの部屋の100ルピーほどの違いでも高いって感じてしまうのだが、体調もよくないので少しでも快適な部屋を確保したかったのだ。

部屋に入るとやっぱり壁が真っ青。早速エアコンをつけるかと思ったが、部屋の中にエアコンの類が見当たらない。ん??と思ったら、入り口のドアの脇に小窓のようなものがついている。それを開けると大型の四角い扇風機のようなものが部屋の中に向かって置かれており、スイッチを回すと微妙な風が部屋に舞い込むようになっているのだ……エアコンってこれかよ。しかも小窓と扇風機の隙間が結構空いていて、廊下の外がバッチリ見えるし。廊下を人とか歩いてたら気になっちゃうじゃねえかよ〜…。

とにかくもベッドに転がり、狭い寝台列車で窮屈だった体を思う存分伸ばした。少し休んだらジョードプルの街観光にでかけようと思った。




ジョードプル4に続く。