リアルドラクエの城を見に行こう!(2)

※この記事は10/6・7・8で三つに分かれています。これが二番目。



「アタシのはね、失恋旅行なの…すっごく好きでラブラブだった彼と別れちゃって…どうしても心の整理がつけられないから一人旅でもしようかなあって…」


女子子は周囲をはばかることもせずにそんな話を始めた。よくありそうな話…だが…。
「アタシね、これでも一応美大に通ってんのよ。絵描くの好きだからこの旅行を絵日記に記そうと思ってさぁ」
赤地に白の水玉模様のかわいいA4ノートの最初をめくる女子子。無地のノートには《ラブラブだった○男との突然の別れ!チョー悲しいアタシ!いつまで経っても忘れられなそう…〜でもこれを乗り越えなくっちゃ!そう思ったアタシはフランス行きのチケットを買い、一人旅へ!…〜そして○○航空○○便はフランスへ〜!》というようなプロローグが、サラッと書いた絵とともに数ページ綴られていた。簡単に見えて、やっぱり絵心があるのが見て取れる。うまかった。


『なんか痛い女だなぁ…』とは別に思わなかった。
どんな旅行をしようがそれは旅行をする人の自由で、他の人がなんと言おうと自分が楽しめればいいのだし、自分が楽しめる為に旅行をするのである。俺も個人旅行派だが、「ツアー旅行なんて旅の醍醐味を味わえないよ。やっぱり旅は自由旅行でなくっちゃね」、だなんてしたり顔で語る奴には正座させて往復ビンタを3往復ほど食らわせてやりたい。ツアー旅行だろうが、どんな旅行をしようが、楽しめたり自分が納得できる旅行ができればいいのだ。



美大生ってなんかみんな絵超うまいんだろうね。絵の仕事とかもうしてたりするの?』
女子子はディズニーシー立ち上げの時に、アトラクションの各部に絵を描くというアルバイトをした事があるのだという。え…それマジすごくない?だってディズニーシーだろ?絵うまいんだなぁ…!
「んーどうなんだろ。わかんないケド、ディズニーは徹底してるね。例えばあるアトラクションがあるのね。アタシはその壁面なんかに絵を描くわけなんだけど、普通のお客さんがそんな所絶対見えねえだろ!ってところまで、キッチリ絵を描かされるの。あの徹底っぷりはすごいよホント」

                       ※

というような話をしたり、寝たりを繰り返している内に飛行機はモスクワに着いた。もう真っ暗の夜中になっていた。
空港からバスで少し離れたホテルまで、雪の中を走ってゆく。

ホテルの入り口にはSPのようなスーツ着たゴツい男が立っていた。俺等は監視されてるんだろうか…ロシアという国の閉鎖的な空気を感じた。バスの中でもう一人話したオランダに行くという日本人がいて、俺等三人は歳が近かったこともありちょっと意気投合。エレベーターに乗り各自の部屋に入った後、お互いの部屋を見比べようという話になった。
「やっぱり外には出られないらしいんですよ。ロシアって感じですよね…」 「まあこの雪じゃ外に出てもね…外真っ暗だし」
「ねえ…せっかくだし、一階にバー!あったよね!ウォッカとか、飲みに行かない!?」
俺の部屋でベッドに腰掛ける女子子がそう提案した。オランダ行き男と俺も、いいね!と承諾する。


失恋の女子大生…一人旅…酒…そこで俺の脳がすさまじい速度で演算処理をし、光速でとある答えをはじき出した。こ、こんな漫画みたいなチャンスは中々ないんじゃないでしょうか??行けるぞ!オイ!あ、問題はオランダ野郎をどうするか…適当に酔い潰すとか…いや待て!実はあいつも同じ事を考えて…。
3人乗るとぎゅうぎゅうの小さなエレベーターの中で悶々とする俺、チーンと音がなりバーのある一階に着いた…。



このおいしい状況を果たしてうまくゲットすることができるのかっ!!?ウォッカで俺のハートも燃える!酒の力を借りて行くところまで行っちゃえYO!!!…ちなみにこの時カルカッソンヌ見に行きたいとかそういう想いはどっか彼方に吹っ飛んでどうでもよくなっていた…。




続く