欲望の船(4)

港から程なく歩いた場所にある中規模のホテル。そこが俺達の宿泊場だった。手前には十数席のテラスがあり、そこにまばらに欧米人が陣取ってだべっている。ホテルでは二人につき一部屋で割り当てられるらしい。当然一人で参加している者は誰かと相部屋にならなければならない。
ツアーコンダクターがフロントで人数分のチェックインをしていると、またまた件のマイクが横に滑り込んできてこう言った。




「ヘイ、VES、私達は一緒の部屋に泊まる!オーケー?」


冗談じゃなかった。うっかり心臓病を起こしてしまいそうな動悸に眩暈を覚えたが、ここでまかり間違って『わ、わかった…』などと口を滑らせてしまったが最後、マイクによって眠れられない夜と一生モンのトラウマを背負わされるだろう事を本能が告げていた。



『いや待て!マイクには連れが二人いるじゃないか。彼等と一緒にマイクは泊まるべきだろう!(つかそうしてくれ!)』


「問題ないよ。4人で一部屋に泊まればいい」

ハァ?テメーの脳みそに問題があるんだが!???





いやいやいやいや。



俺が手を振るとマイクはコンダクターに食って掛かった。どうやらおれ達を4人で一部屋にしてくれ!と言ってるみたいだった。4P!4Pなのか?男だけで!?そんなんできるわけないだろ。かぶりを振るコンダクター。ああ、あんた今最高に輝いてるよ…!


しかしマイクは諦めずに、一度背後を振り返った。そこには彼が連れてきたベトナム人の青年二人がいた。
マイクは迷ったような顔を見せ、何度か俺とベトナム人を見比べた…。




「よ、よし……なら私はVESと泊まる。あいつらは二人で部屋に泊まる。それでいこう!オーケー!?」



…どうしてこいつは俺にこんなに執着するのか…中学三年生の時隣のクラスのサイトウさんに初告白をし見事玉砕して後、数々の女性に7連続振られまくるというレコードをたたき出した経緯のある俺にとって、人にこんなに執着されたのは初めてだった。だが気持ち悪い。マイクと二人っきりの部屋にいるとか、突然ジャングルに放り出された飼い犬のチワワのように、何事につけビクビクと恐れおののきながら一晩中神経過敏になっていなければならないだろう。



どうにかこの暗黒のような状況を打破しなければ!俺は頭をフル回転させ周囲を注意深く見回すと、ヨーロッパ系の映画ハリーポッターを2段階くらいもやしっ子にしたようなバックパッカーが一人で手持ち無沙汰にしているのが見えた。俺はとっさにコンダクターの腕を掴み、『あいつ、あいつ一人だろ?俺あいつとでいいです。』

コンダクターは彼と相部屋になる者を探していたらしい。ぽんと思いついたような顔をすると、じゃそれでいいですか?とマイクの方をみた。いやマイクの方は見んでええから。俺に了承を求めろよ!
マイクは何かをいいたそうに口を開きかけたが、俺がオケオケそれでいいよ!と念を押すとさすがにそれ以上は食って掛かれなかった。
どうやらマイクはベトナム人二人と一緒の三人部屋になったらしい。おーこれでいいんだよ!ザマミロ!後はお前らだけで濃厚なミルクセーキのような甘い夜を過ごしてくれよ!!と思わずにはいられなかった。



(5)に続く。