かまいたちの夜
（1994年11月24日発売/サウンドノベル/SFC/チュンソフト）
『で、オーナー、今日の雪の具合はどうなんですかね？』
白馬の雪山をワゴン車の窓から見やりながら、俺は少し緊張しながら、40過ぎのオーナーにさりげなさを装ってそう呟いた。
あまりペンションに泊まった事がないのでわからないが、ペンションのオーナーを実際にオーナーと呼ぶのは普通だろうか？あの…とか、すいません…とか、そういう声のかけ方をする気がする。少なくともオーナーさんとか。当時の俺の年齢からすれば、送迎の車を運転する40代の男性をオーナーと呼びつけるのはやや横柄だっただろう。
じゃあなんでそんな呼び方をしたのかというと…一言で言えばゲームの中のキャラの真似をしていたからだｗ
そう、俺はこのゲームの舞台となった長野のスキーペンションを実際に訪れていた。
ゲーム内の実写真に使われたペンションクヌルプ。何度もゲームの中で見たそこに、どうしても泊まってみたかったのだ。美人の彼女と一緒に、ではなく、野郎友達と二人という悲しいメンバーで。
「……スキーするには中々いい雪だと思いますよ。天気もいいしね」
ほんの少しため息のような空気を鼻から出し、オーナーは前を見ながら言った。何かを諦めたような雰囲気が背中に漂っていた。
※
ややあって着いたペンションクヌルプ！（ゲームではシュプールという名前だった）玄関を抜けるとゲーム中でよく登場人物7〜8人がたむろしていた談話室があるはず…！
『あ、あれ…狭い…』
実際の談話室はせいぜい4人が話せればいいくらいの広さだった…。続いて案内された部屋は…それもゲーム内のミニチュアかっちゅーくらいの（ゲームで見た感じの4割くらいの）独房のような狭い部屋に申し訳程度の小さなベッドが二つ並んでいるだけの部屋だったのだ…。
要は、旅行ブックに載ってるホテルなどの部屋写真のように、超広角レンズを使いさも広い空間のように撮った写真がゲーム内では使われていたのである。
（…うーむ実際はこんなもんかあ…この広さじゃゲームの殺人事件のトリックなんて絶対にできねえよ…ま、まあでも見た感じは小さいけどゲーム内と同じだし…）ワクワクがテンションダダ下がりに侵食されてゆくのを感じながら、精一杯自分を騙そうとしていた。「なんか小っちぇえな…」ダチも同じ意見だった。
それでも夕食はゲーム内通りにうまかった。俺達は他の宿泊客が部屋に引き払った頃になって、ペンション内で写真撮影を始める事にした。そう、作中で使われていた角度と同じアングルで写真を撮るのである。
「次談話室で話すシーンな！二階から見下ろすように撮って！」「そこに死体みたく転がって撮って！」俺達はゲームで見た光景を次々と再現した。
すると、オーナーがそんな俺等の脇を通り過ぎて行った。俺等の撮影をみて、うろんそうな目で…何かを口にしようとしながら、ぷいっと奥へ行ってしまった。
俺には彼が何を言いたかったのかわかっていた。【かまいたちの夜】が発売されてからというもの、舞台となったこのペンションにゲーム繋がりで泊まりに来る客はかなり多かったらしく、そしてその客がどいつもこいつもゲームの真似をペンションでするので、他の宿泊客の迷惑になったりとオーナーは辟易していたらしいのだ。だが、俺等もそれをやるのを止められなかったのである。『そ、そろそろ部屋に戻るか…』俺等は逃げるように部屋に戻った。
※
次の日は帰る日だったが、朝方最後のスキーをしていった。そこでなんと俺はカメラを滝つぼに落とし回収不能に、ダチは帰りの切符をスキーで転んだ際に紛失するという事件にあったｗ まるで二人して天罰にでもあったみたいだった。旅先でカメラを紛失した経験はあるだろうか？超ブルーになるものである。
駅まで送る車の中で、俺とダチはペンションが今一つ作中と同じではなかったこと、カメラと切符を失った事に疲れて、釈然としない思いを抱えていた…。俺等の他にゲームで来た客がいたのか、相変わらず疲れたような顔をしてオーナーもあまり喋らず運転をしていた。重苦しいムードが満載のワゴン車は、雪山を後にしつつ、駅へと向かっていったのだった…。
この当時まだそんな言葉はなかったが、この話もつまり聖地巡礼である。確かにゲームやアニメの中で舞台となった場所を実際に訪れるのはテンションが上がるのかもしれない。が、作中ではこうだった！という身勝手なイメージを押し付けるようにやってこられるのは、地元の人は迷惑だったろうな。ペンションクヌルプのオーナーさん、あの時はマジですいませんした！
主人公と彼女の名前を変更できるんだよね。（ちなみに現実ではお約束のように別につきあってないｗｗ）マインドアサシンに消してもらいたい記憶っす！
プレイ動画。かまいたちは１が最初にして最高だったんや…音楽も最高。
