デリー4・インドの夜はジキにジキジキで…w


「あ〜…VESさん、女の子で遊びたくないっすか…?」


これ、彼女への土産にしようと思うんすよ。いいでしょ?これ。とかついさっき日本の彼女用にハンドメイドの洒落たノートを買った男の口からこんなような言葉が漏れるわけですよ。怖いですよ男の旅行って奴は!



インドに着いたばっかりの緊張から解放され、酒も入ったタナカさんは本能に正直になっていた。ここで真面目くさって、ホテル帰りましょうよ。とか言ってもつまらない。俺は『…なるほど…女の子っすかぁ…俺、いいアイディアあるんすけどw』と言った。



(↑夜が更けてきたデリー)





『ジキジキ、っていう言葉があるらしいんすよ、インドには。』


「ジキ…ジキ?」タナカさんは不思議そうな顔をする。


『そうジキジキ。なんかの本で読んだんですけど、これインドでS○Xを意味する隠語らしいんすよ』


「へえ!で、そのジキジキをどうするんですか?」


『いいですか?俺等は今日デリーに着いたばっかりで右も左もオネーちゃんのいるところもわかりません。ですけど、5m歩けば客引きに捕まるデリーっすよ?そこでこの魔法の言葉を呟けば、ぐっへっへ、もう一発で案内されるに決まってますよwww』



なるほどぉ!と頭の上に電球が閃くタナカさん。ただね、やっぱインドだし、衛生面とかよくないし、本当に遊んだらヤバイっすよ!下手すりゃ死にますよ!
…だから冷やかしに行きましょうよ!wと俺は提案した。タナカさんはやや考えた風で、「そうっすねw危ないもんねw」とおどける。


というわけで、よーし、作戦は決まった。





メインバザールを出てニューデリー駅を横切った俺等はあてどなく街を放浪した。広く大きな道にはアンダーグラウンドな空気は感じられない。道を一本入った通りにピンク色のネオンがきらめくのが見える。あっちへ行ってみましょう!と俺達は足早になった!

ネオンはホテル?が多くいかがわしい店ではなかったようだ。だが客引きっぽいおっさんが突っ立っている。おっさんは俺等を認めると声をかけてくる。早速俺は『AH〜ジキジキ?ジキジキ〜?』と言ってみた。ほら、連れてってくれよ俺等をいかがわしい店に!


んが、「何言っとんの?」という顔をして首をかしげるおっさん…な、通じてねえ…何回言い直してもわかってくれないおっさん。後ろでタナカさんがどんな表情をしてるのか見なくてもわかる。これじゃ知ったか星人のようではないか俺。『ちょ、こいつ話通じませんよ。他あたってみましょう他』と、またしばらく歩くと別の客引きを発見した。

今度の客引きは脂ぎった小太りのインド人で、俺等を見つけてパッと明るい顔をした後、満面の笑みを浮かべて下から見上げるように「何かお探しかな?」と声をかけてきた。俺は何となくこの脂ならわかるだろうという直感がした。


『あ〜ジキ…ジキ…』

すると脂は「おうぅ〜う!ジキジキ!オッケ〜ェ!」と、こーのドエロ小僧wwwお前の言いたいことはわかっているぞww というようなねちっこい笑みを浮かべた。


『女の子と遊びたいんだけど…』と言うと、「みなまで言うな!わかってる!」という脂。俺とタナカさんはキタ!という視線を交錯させた。

「店に行くか?車で連れてってやる。それともここに連れてこようか?」店に突撃してみるのも面白そうなものの、夜もふけたデリーでいずこともしれぬ店に連れて行かれるのは危険な気もする。ここに連れてきてくれ。ちなみにおいくらかかるのよ?と聞くと。




「…ん?200ドルだ200USドル。」






高!…いやインドの相場は知らんけど、絶対に高いだろそれは。それはボッタくりだろと抗議したが、脂は一向に値を下げようとする気配がなかった。この自信はどこから来るんだろうか…デリーについてからまだ数時間しか経っていないものの、これまでのインド人の客引きの傾向からすると、まずはじめに思いっきりぼったくった金額をふっかけてきて、それを断ると一気に半額くらいに落ちるというパターンが多かった。なのに値を下げようとしないということは…。



『「すんごいんだ!すんごいインド美女がくるんだ!!」』俺とタナカさんの意見は完全に一致していた。インド初日の夜というテンションも相まって、俺達はちょっとバカになっていた。


ここでもう一度断りを入れておかなければならないが、俺達は本気で女の子と遊ぶつもりはなかった。あくまで冷やかしてインドの夜がどんなもんかを覗いてみたかっただけなのである。断じて本当に遊ぶつもりはない。…が、が、が!頭でわかっているはずなのだが、もし究極的なインド美人を脂が連れてきたらどうしようか。という気持ちもあった。
『タナカさんすんごいの来たらどうします?ww』 「え〜VESさん見るだけなんすよねw」 『いやいやいやいやwもろちん、もといもちろんそのつもりですってwww』 「ですよね〜wwでも美人来たらあんぐりしちゃうな〜ww」


……ほらね、会話を抜き出すと本当にバカになってたのがわかるっしょ(涙)



「あと2分で車に乗って来るそうだ」
時計を見る脂。ギュンッっと車がくるはずの通りを見やる俺等。


その2分はやたら長く感じられた。「あの車だ!」おおおおっ!黒い車が俺等の前に止まり、スモークのかかった窓が開く。つま先立ちになり首を伸ばす俺等。オリエンタルでエキゾチックな色気を漂わせたインド美人がそこに……!!




ウィーン! 「ハァロー」





後部座席の窓から顔をのぞかせたのは、じゃがいものような顔をしたインド人?女性二人…ま、マネージャーか!?窓から奥を覗いてみる。が、やっぱりその二人以外に車中にいるのは運転手だけというありさまで…。




俺等は同時に脂の顔を振り返り、もう一度車中を見る。そして脂の顔を見る。脂は自信満々の顔で「どうだ?200ドルだ。高くない!」と嬉しそうに言う。




「………」俺等は既に、【買う気はないけど店内の服を見ていたら店員さんが脇に来て説明しだした時の後ずさり】状態になっていた。


『オメーのその超自信はどっから沸いて出てきてるんだよ!!』って言ってやりてーけどそんな英語言えねー…!俺等は執拗に食い下がる脂を振り切って、ホテルへの帰路についていた。



『インドって美人いないんじゃないんですかね…だって街ついてからそんな人見てないし。きっとそうなんすよ』俺等はそんなことをいいながら初日の夜を終えた。…だが、それは間違いだったことに気がついたのは次の日だった。