デリー8・恋におちたらc





(レッドフォート手前の道路沿いのレモン飲料の屋台。飲みたかったけど危なそうだったのでスルー)




二度あることは三度ある…はず、と信じた俺はレッドフォート内部に進んでいった。うーむ…イッブソンのことを考えるとこう…胸が苦しくてバクバクすんだぜ。これはなんだぜ。と考えると、恋としか形容できないような気がした。中3の時隣のクラスのサイトウさんに告白し玉砕して以来恋の百戦錬磨だった俺なわけだが、インドという異郷に来てする恋はいつもと一味違う。







イッブソン…








はうっ。きゅん!






あ、危ない…危うく酸欠に陥るところだった。これだから恋のせつなさは怖い。改めて言うがインド、いや外国で初めてこんな苦しさに陥った俺。俺のノミのハートは恋の予感に乱れ打っていた。ただの恋じゃねーよこれは…『インドの初恋』ですよこれは!なんとなくサイトウさんの顔を思い出した。元気かな?





(城内の土産物屋があるところ)



と、少し進んだところに土産物屋が左右に並んでいる通りがあった。欧米人やインド人の旅行者などがアクセサリーや絵などを手にとっては冷やかしたりしている。


はっ!



それらを見て俺はピーンときた。
なんとなくまた会える予感のするイッブソン。次もし会えたら俺は、間違いなく彼女をお茶に誘うだろう。初恋に告白するだろう。そこでだ!手ぶらで告白するよりかは何か手土産があった方がいいのではないか!という天啓が閃いた。ナイス俺www抜かりない策士ww



そんなわけで一軒のアクセサリー屋にダッシュする俺。店のおっさんがダルそうにしているのを横目に、イッブソンに似合うアクセサリーを探し始めた!
インドのアクセサリーショップはこれ以前にも何軒か覗いたが、まあ大抵が日本のアジアンショップもあるような紐にゴテゴテジャラジャラした木やガラスの色とりどりなブレスレットやネックレスが多い。金属製でなければ値段は30〜80ルピーくらいか?が、数だけは死ぬほどあるものの、どれもこれも安っぽい…。いかにも安物でござい!と主張するようなのしかないのである。違う!これじゃイッブソンには似合わないんだよおおお!!


何十というブレスレットを漁ってると店主がムカついてきた。こいつ、要するにデリー有数の観光地内部に店を構えているので、客は一見さんが次から次へとやってくる環境で、営業努力をしていないのだ。それがこのセンスのないアクセサリー群というわけだよっ!あーこのオッサンに正座させてお洒落というものをこんこんと説いてやりたい。東京カワイイtvを毎回録画して見せてやりたい。女の子はなぁお洒落に命かけてるんだよっ!眉毛つけるのも変なクリームや粉つけるのも遊びでやってるんじゃないんだよっ!!




はぁはぁ…いかん取り乱してしまった…。お洒落を語らせたらうるさい男でごめんね。しかし、俺は急いでいた。早くこの中からイッブソンに似合う一品を探し出さねばならない…ない、ない…これもショボイ、これもダメダメ…。


『チッキショー!これだけ数はあるのに…ん?』



安っぽいブレスレットの中に埋もれるようにしてそれはあった。緑、赤、濃紺、空色といった色とりどりの丸いガラス玉が配色センスよく、それでいてインディア風を感じさせる一品。他のダメなブレスレットはどれもが多少の色違いはあるものの量産品なのに対し、それだけは他に似たものがなく、一品物だった。こ、これだ…。これは安っぽくない!これならイッブソンにも似合う。



俺はこれだと思い店主にそれを求める。50ルピー、安い。しかし一見それほど安そうに見えない。よっし、これならいけるぜぇええ!ついでに俺用にスカイブルー色に染めた木片を繋げたブレスレットも購入。すぐ装着。さーこれで策は整った!後はイッブソンに会うだけだ!!




俺は意気揚々と土産物屋を後にすると、再び城内を見て回ることにした。商店が軒を連ねる通路を抜けると広い敷地に建物が点在するのが見え、そこに繋がる道が左右に分かれる。観光客は気分で右に左に曲がっていき、そこから自分の好きなような進路で好きな順番に建物を観光していく。つまり美術展のように順路と言うものがないのである。



(写真撮らせて、と言ったらじゃあ家族全員で…とぞろぞろ集まってきた)


イッブソンらはどっちの進路を行ったのかわからない…ということは、運が悪ければ俺は彼女らと反対の方向に回ってしまい、城内観光中にもう一度会う事は困難なように思われた。それくらいこの敷地は広い。



うーーーーーむ…これは…かなり会える確立とやらは低いんじゃないだろうか…?
俺はまあ、偶然を信じていたのでがむしゃらに彼女らを探すようなことはしなかった。が、城内を見て回れば見て回るほどその広さに舌を巻き、落胆の思いは胸中に広がっていく。正午近くになりサンサンと照り輝く頭上の太陽は容赦のない日射を浴びせた。暑い…。背中に感じる汗の滴る感触。軽く、頭がボーっとしてくる。





…出会った時からきっとすべての世界変わり始めてたよ♪
今ならこの気持ち素直に言える〜♪





俺の頭の片隅で、小さなクリスタルケイが細々と歌いだしていた。






クソッ!やっぱり正門で誘っとけばよかったんだよっ!っだ〜〜!なんかスゲー胸がいとしさとせつなさと心強さとに溢れてる。俺は歩くのをやめて一息つこうとした。ん…?右手首が青い…?げっ。ついさっき買ったばっかの青い木のブレスレット、俺の汗で色落ちしてやがんの。何ですかこれ…この糞暑い国でちょっと汗かいただけで色が落ちるブレスレットってのはよおおおお!かっとべええええ!
すぐさま手首からはずすと、木のブレスレットは渾身の投球で核弾頭のように青空に吸い込まれていった。

なんだかドッと疲れを感じ、しかし再び敷地内の観光を続けて写真を撮ったりしていた。すると…





『うぉぉ、マジか…』 思わず口に出る声。鮮烈に目に焼きついた空色とピンクのラインの装束。ありゃイッブソンだ…。



レッドフォートの広さを今ひとつ想像しにくい読者の方に説明が必要だが、俺にはこの広さの中で三度会えるという事に偶然、いや運命、てかディスティニーを感じ始めていた。ポケットに忍ばせていたガラスのブレスレットを取り出す。
腹はさっき括った。深呼吸!おっしゃ今度こそ俺はイッブソンを誘う!





自分で自分の胸の鼓動が聞こえるくらいに俺の緊張感は高まっていた。なんだろう、これまさに初恋な気持ちだわ…。イッブソンが振り返ると俺と目が合う。うっ頭が真っ白になってきた!
プロポーズは『俺に味噌汁を毎朝作ってください』だろうか?いやいや、インド人なんだから『俺に毎朝チャパティを焼いてください』なのかな?とか、日本人は16歳から結婚できるけどインド人は何歳からだっけ?とか、そんな事が頭をぐるぐる回る。ノドが渇いてきた…いやいや!VESしっかりしろ!プロポーズの前にブレスレットを渡してまず今夜の飯に誘うんだよぉぉッ!!


イッブソンとお母さん…いやお養母さんはこんなに短時間に三度目会えた事を驚いたような顔をしていた。劉備VES徳、イッブソンさんに三顧の礼をさせていただきますっ!!







COCOROから!COCOROから!♪



君が思う君が大切なものはなんですか♪



COCOROから!COCOROから!♪









いつの間にかクリスタルケイは汗をブン流してサビを熱唱していた。歌に後押しされるように歩を進め、ブレスレットを差し出す俺。









『い、いやぁ〜ホントに偶然だね…三度も会うなんて…。もうこれは何かの奇跡だねw 今夜ご飯でも一緒にどうかな?…あっ、そういえば偶然キミに合いそうなブレスレットを持っているんだけど、もらってくれないかなww』








                       ※














いやぁ〜〜〜〜〜っ。
ひさびさに見たよ。人の表情が凍る瞬間って奴をよ…。むしろ俺が?ビビってしまったね…。




この歳になって、俺はいつの間にかまほうつかいになっていた。



いつの間にかマヒャドも覚えてしまっていた…。



すごいよ。表情を凍らせたままマイケルジャクソンばりのムーンウォークで二人とも消えてったぜww


気がついたらとっくにクリスタルケイはライブをやめて帰っていってて、俺はブレスレットを握ったまま立っていたんだwwwインドの初恋1時間あまりで終わったんだけどww










色とりどりのガラス球が太陽の光を通してカラフルな影を手のひらにつくる。
しょうがないので俺はそれを自分の手首にはめた。以後旅行中俺はそれをずっとつけていた。
レッドフォートの説明、あんましてないけどもういいよなw 次だ次wwどちきしょー!